剣と盾

「で、早々に諦めたわけか」

呆れたような声で言われ、スザクは言葉をつまらせた。
言い返せない。
ユーフェミアを自分が望む道筋へと導くには、力不足だった。そもそも頭を使い、裏で画策してその通りに物事を進める才など持ち合わせていない。ナイトオブセブンであったときも、ナイトオブゼロであったときも、自分が最前線に行きすべてを終わらせた。部下を守ることはあっても、部下を自分の指示通りに動かすことはなかった。

「分不相応というやつだ。お前は確かに英雄だったが、それは、ルルーシュがお膳立てし、シュナイゼルたちが支える前提のもので、お前一人の力ではさっさとぼろを出し、ゼロレクイエムは茶番となって、英雄ゼロ・システムは崩壊する」

熱々のピザを頬張りながら、ズバズバと痛いところをついた。だがそれは嫌みなどではなく、すべて事実だ。C.C.は嘘はつかないとルルーシュが言った通り、今まで嘘はつかなかった。だからこそ、信頼できる。だからこそ、あのルルーシュがずっと側においていたのだ。

「そもそも、お前はユーフェミアを過信しすぎている。あれは、たった16歳の小娘で、コーネリアに守られ、争いとは無縁に生きてきた箱入りだ。コーネリアという最強の盾が自分を守っていることにも気づかないほど、回りも見えていない」
「ユフィを悪くいうな」

思わず低い声で忠告するが、彼女…C.C.は感情を揺らすことはなかった。

「おいおい、そんなに殺気立つな。ここは、ごく普通のピザ専門店で、周りは一般人だぞ？会話は聞こえずとも、お前の殺気に当てられて、何人か気もそぞろになっているじゃないか」

あきれた声でいわれ、思わず回りを見渡すと、意味もわからずに不安になり周りを気にしいる人が何人かいた。スザクはただの軍人ではなく、この時代で最強の騎士であり、英雄にまで上り詰めた達人だ。その殺気は周りの空気を一変させるほど強い。

「それに、私はともかく、お前は有名人だ。なにせ名誉でありながら皇女の騎士になったんだからな。そんなお前が、私のような美少女と食事をしている姿を目撃されるのは、色々とマズイだろう」

いくら、二人揃って変装しているとしても、絶対に気づかれないとは言い切れない。もう少し考えろと呆れたように言いながら、C.C.は次々にピザを胃に納めていく。ただの美少女となら、皇女の騎士とは言えまだ若いからとか、棋士になる前からのとか、色々言い訳もできそうだが、黒の騎士団にいるC.C.と一緒だとばれたら最後だ。スパイだとされて今度こそ処刑だろう。

「せっかく過去に戻ったのだから、あれもこれも変えたい。思い通りの未来にしたいという気持ちはわかるが、お前には無理だ。もちろん、私にもな」

諦めに近い感情がにじんだ言葉に、自分よりも頭の回転が上の彼女も同じように壁にぶつかっているのだと気づいた。
そう、未来から過去に戻ってきたのはスザク一人ではなかった。
あの日、ゼロ専用航空機に、ゼロのお世話係りという名目で同乗者し、国を渡ろうとしていたC.C.もまたこの時代に戻されていたのだ。
死んだからこの世界に来たと思っていたが、不老不死だというC. C. が死んで過去に戻されたというのはおかしな話だ。もしかしたらあの世界には生きたC.C.もいるのではないだろうか。となればゼロであるスザクも生きている可能性がある。意識だけ過去に飛んだのか、何かしらの分岐が発生したのかは判断のしようがないが、今彼女がここにいるというそれだけで心強かった。こんな荒唐無稽な話は他の誰にも話せず、それでも悲劇を回避するためにどうにかしなければと追い詰められ、半ばノイローゼになりかけていたスザクにはありがたい存在だった。

「じゃあ、どうすればいいのさ」

スザクは疲れたように一息吐き、ピザをかじった。濃厚なチーズと魚介の味が口に広がる。C. C. と会うときは必ずピザ屋なので、正直に言えば食べ飽きた。美味しいとは思うが、どうせ食べるなら別の店にいきたい。ルルーシュにピザ女と言われるほどの彼女が、それに同意を示すはずがないのはわかっているので、口にすることはきないが。

「行政特区ともかく、ユーフェミアが死ななければ、ニーナはフレイヤを完成させることはないだろう。核分裂を楽しんではいるが、それが恐ろしい兵器になると理解すれば、ユーフェミアに失望されたくないから公開することはない」

ユーフェミアが生きていることが何よりも大事なのだ。惨劇を回避さえすれば、未来は大きく変わる。

「行政特区に関しては、ルルーシュを動かすのが一番だろう」
「それは、ルルーシュにすべて話ということ?」

自分達が、未来から来たということを。
スザクの問いに、違うとC. C. は首を降った。

「なにも、すべて話す必要はない。あれは、無駄に頭がいいから、ある程度情報を与えれば、勝手に理解する」

ギアスや神をあっさり受け入れたルルーシュだが、意識だけ過去に戻ったという話を信じるかはまた別だ。未来の肉体のままなら信じたかもしれないが、意識だけなら、誰かのギアスで操られている可能性を考えるかもしれない。
出来るだけ不必要な情報を渡してはいけない。

「その、ある程度の情報に、ギアスの暴走と皇帝のギアスの情報もいれてよ」
「…そうだな」

そもそも、そんな大事なことを隠していたからあんなことが起きたのだ。
マオがギアスを暴走させていたことをルルーシュが知っていたとしても、悲劇は起きた。彼の知能を過信するのは禁物だという前提で、二人は動くことにした。